2010年8月29日日曜日

ハイ・コンセプト


ダニエルピンク

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代


ほかの国なら、これをもっと安くやれるだろうか?

コンピューターなら、これをもっとうまく、早くやれるだろうか?

自分が提供しているものは、この豊かな時代の中でも需要があるだろうか?


上記の質問に『はい』と答えられるような仕事は、

アジア、オートメーションなどといった要因により、

日本のような先進国で必要とされるような仕事ではなくなってきています。

そのような社会背景になる現代で、

先進国の人間が身につけるべき能力とはどのようなものでしょうか?

それが、6つのハイ・コンセプトな能力です。


日本の医療は、法的な障壁によって国外との競争から

守られているという要素もあると思いますが、

日本語という言語という面からも守られている市場と言えます。

国外との競争にさらされておらず、医療の質という面からも、

ハイ・コンセプトな能力までは必要とされていません。

しかし願わくば、こうした能力が求められる時代が

医療にも来れば、患者さんのためになるのだと思います。


6つのハイ・コンセプトとは、

『機能』だけではなく『デザイン』

『議論』よりは『物語』

『個別』よりも『全体の調査(シンフォニー)』

『論理』ではなく『共感』

『まじめ』だけでなく『遊び心』

『モノ』よりも『生きがい』


本著の中で、それぞれに関して、医療での取り組みも

例として取り上げられていますので、まとめておきます。


『デザイン』

ピッツバーグのモンティフィオーレ病院で行われた調査によると、
手術後、自然光が十分に差し込む部屋で過ごした患者の方が、
従来の病室にいた患者よりも鎮痛剤の投与回数が少なくて済み、
投与量を2%も低く抑えられたという。

一つのグループは、陰気な感じの昔ながらの病室で治療を受けた。
もう一方は、現代的で太陽光が差し込む、見た目もきれいな病室で治療を受けた。
すると、デザインのよい部屋に入院していた患者の方が、
あまり感じの良くない病室にいた患者よりも、
鎮痛剤の投与量が少なくて済み、平均して2日早く退院できたという。


『物語』

コロンビア大学医学部教授のリタ・シャロン博士によると、

―科学的に優れた医学だけでは、患者が病気と戦ったり、
苦しみの中で意義を見出したりする手助けをすることはできない。
科学的な能力とともに、患者の話を聞いてその意味を把握して尊重し、
その上で患者の身になって行動する能力が医者には必要なのです―

いくつかの調査によると、医学部の学生は学年が上がるにつれ、
他人と共感する能力が下がっていくらしいが、
物語医学が目指しているのは患者との『共感』であり、
そこからハイタッチでハイコンセプトな結果を生み出すことだ。
物語を学ぶことで、若い医師は患者と良い関係を築けるようになり、
患者の人生物語を背景に現在の症状を判断できるようになる。

シャロンの学生はみな、一人の患者に対し、二つのカルテを作成するという。
一つは量的な情報や医学的用語が並んだ典型的な病院のカルテである。
だが、もう一つは、患者に関する物語や、
自分自身の感情の推移を記録しておくもので、
シャロンはこれを『パラレル・チャート』と呼んでいる。


『全体の調査(シンフォニー)』

おもに関連性をとらえるということ、明らかに無関係な要素を結びつけて、
新しいものを作り出す方法、『境界を越えられる人』『発明できる人』
『比喩を作れる人』『統合医療』をもとめる声が高まっているが、
これは、従来医療と代替医療や補完医療を組み合わせたものである。

『ホリスティック医療』というのもあるが、これは特定の疾患だけではなく、
患者を全体的に治療することを目的としている。
このような動き-科学に根差してはいるが、
科学にありがちな患部だけを治そうとする
左脳的アプローチだけに頼っているのではない-は、
国立衛生研究所に独自の部門が設けられるなど、
医療の主流として認められるようになってきた。


『共感』

『物語医療』の節で述べたように、特に医師にとって、
物語は共感するための手段となりうる。
医療界の数名のリーダーたちは、医師の仕事には
「共感から距離をおくのではなく、積極的にかかわっていこうとする」
アプローチこそもっとも重要である、と主張している。

医療の仕事の多くが標準化されている。
つまり、さまざまな病気の診断や治療に繰り返し使える
決まった手順の集まりになっているのだ。
このような仕事の一部はコンピューターにもできるのである。
コンピューターにはできないこととは、人と共感することなのだ。
共感によって、正確な診断を下すための、
事実に基づく知識や使用する技術、各種ツールを補完することができる


『遊び心』

週に最低3時間はテレビゲームをする医師は、
ゲームをしない医師に比べて、腹腔鏡手術でのミスが37%少なく、処置を27%早く行える


『生きがい』

定期的に祈りをささげる人はそうでない人と比べると平均して血圧が低い、
礼拝に出席することで心疾患や自殺、
ある種のがんなどで命を落とすリスクを減らせるといった報告がある。
ほかの研究では、人生に高い目標があるとの信念により、
心臓病のリスクが減ることもわかった。

これは議論の余地のある微妙な分野ではある。
一つには神の力を利用して弱いものを救おうとするペテン師がたくさんいるということだ。
ただ精神性に頼ることのみでがんと闘い、
折れた骨を治そうとすれば、間違いなく悲惨な結果が待っている。
だが全体思考的アプローチ、つまり、
『左脳的理性』と『右脳的精神性』を組み合わせたアプローチなら、
効果を発揮できることもある。

現在、約40の病院や医療センターに迷路がある。
その理由は、共感や物語が医療の世界に浸透したのと同じだ。
治療における分析的なアプローチは絶対に必要であるが、
必ずしもそれだけでは十分ではない、という認識が広がっている。
このような全体思考が、世界で最も優れた医療施設のひとつ、
ジョンズ・ホプキンス大学の迷路を生み出したのだ。

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