2011年1月28日金曜日

新たな疫病 『医療過誤』


ロバート・M・ワクター、ケイヴェ・G・ショジャニア

新たな疫病 『医療過誤』


本書の特徴

amazonより抜粋

1: 世界最高の医療水準を誇る米国で死因の第5位をしめ、

流行病のように蔓延している「疫病」である医療過誤を、

冷静にまた学術的に高度なレベルを保ちながらも、

医学の専門用語をできるだけ少なくして、一般読者にも読みやすい本として書かれています。

2: 医療過誤の豊富な事例を正確に知り、

さらにその原因を科学的に客観的に分析した医療過誤ノンフィクションは、日本ではまだありません。

3: 医療現場のプロたちが何を考え、感じ、いかに行動するのか、その内幕を知ることができます。

また「付録IV:病院、医療グループ、医師にしておきたい質問」に見られるように、

本書の内容は患者にとって医療事故発生予防に役に立ちます。

4: 医療過誤は誰かひとりの責任追及ではなくなりません。過ちをおかしてしまう、

事故をおこしてしまうという、人間にとって不可避な事象をどのように防止するか。

医療における安全性についての正しい認識をもち、「システム思考」を身につけ、

医療過誤のおこらないシステムつくることの重要性を示します。


本書の冒頭、ある若手医師が救急車手配の指示でミスをしたために、

搬送中の患者が大変な事態に陥ってしまいそうになるエピソードが紹介されています。

救急車内での若手医師の焦り、そして後に自分のミスを知ったときのショック、

そんな心の動きがひしひしと伝わってくる。

まるでテレビドラマ「ER」の一場面を見ているようだ。

それもそのはず、その若手医師というのは、著者の1人ボブ・ワクター教授の若かりし頃なのである。

各章の冒頭には必ずこのような医療現場の出来事が生き生きと描かれる。

そして、出来事に対する冷静な分析と考察、それをふまえた上での再発防止への提言と続いていく。

そこには巷のジャーナリズムで伝えられる、

登場人物を善と悪に単純に二分して語るような安易なストーリーは存在しない。

おそらくそれはこの2人の著者が、現役の医師であり、医学教育者であり、

しかも病院の安全管理責任者であるというところによると思う。

要するに「医療過誤なんて、そんなに単純なもんじゃない」のである。

医療過誤の現場をよく知る立場の人間が、本当にあるべき対策について書いたら、

どのようなものになるのか。それが本書である。

抜粋おしまい


以下は要約です。

(1)患者の取り違え

スイスチーズ理論:小さなミスであっても、

チーズの穴がたまたま一直線にそろってしまうと、そこを『過誤』が通り抜けることになる。

(2)薬剤処方過誤

対策:電子処方箋システム

(3)薬物誤用

対策:バーコード化

落とし穴:規則破りのルチーン

(4)診断の間違い

対策:反復性仮説検証

(5)左右の取り違い

対策:手術箇所にサインをする

(6)手術のときの置き忘れ

(7)手技の練習

(8)申し送りの間違い

(9)初期研修の問題

(10)チームワーク(コミュニケーション不足)

(11)医療過誤と報道

(12)過誤報告システム

(13)医療過誤と裁判


各章の冒頭では、毎回、かなりリアルな実例をもとにした、

医療ドラマが展開され、臨場感たっぷりで読まされます。

おそらく、精神的にネガティブな時には、

かなり自分の医療環境と結び付けられて、怖くなるでしょう!

しかし、多くの実例は2000年以前の症例であり、

今の日本の医療環境とは異なります。

と同時に、アメリカの病院って怖い!って感じます。

現在の日本の同規模の病院ではありえないような環境です。

まぁ、医療過誤が起こってる例ばかりを取り扱ってるからなんでしょうが。

まだまだ医療過誤を減らすために、システマティックな取り組みが、

必要なようです。

患者さんを守ると同時に、

個人の努力では避けられないうっかりミスを減らし、

医師が本当の意味で医療に集中できるためにも、

こうしたシステムづくりに協力していく必要を強く感じました。

2011年1月21日金曜日

デザイン・ルールズ『文字』


伊達千代&内藤タカヒコ

デザイン・ルールズ『文字』 文字とデザインについて知っておきたいこと


プレゼンテーションとそのスライドづくりについて以前に、

『プレゼンテーションZEN』を紹介しました。


スライド作りで、デザインに気を使うことは、重要なことですが、

学会発表に使用する症例発表や、研究発表では、

写真を利用することも困難であったり、

シンプルにして、情報を簡略化することも困難です。

(僕は、学会総会の研究発表のスライドで、

iStockphotoの写真を表紙に使ったことはあります。)


おそらく、グラフィックで1番使用することになるのは、

文字そのものではないでしょうか?


本著では、グラフィックデザインにおける文字の重要性に着目し、

文字の可能性を探るべく、

デザインをするうえで知っておきたい、

押さえておかなければならない

ルールを5つのStepに分類し、

わかりやすく説明してくれます。


Step1:文字を知る

セリフ体とサンセリフ体、明朝体とゴシック体

スライドにあった書体を選択することはまず第一歩です。


Step2:文字とイメージ

高級感や伝統、親しみやすさと柔らかさ、まじめさと信頼感、

洗練された印象、

見た人にどんなイメージを伝えたいかによって、

選択する文字のデザインは異なります。


Step3:読みやすく組む

読みやすいかどうか、とことん気にする必要があります。

書体や文字のサイズに始まり、

文字と文字の間隔、

行と行の間隔

サイズの変化、配置の仕方

などに注意していきます。


Step4:強調する

人は何か伝えたいことがあるからこそ、文章を書きます。

見た人の心の中に強い印象や、特定の感情を抱かせること、

それが最終的なゴールです。

そのためには読みやすい文章から一歩進めて、

表現することが必要になります。

サイズ対比、ウエイト対比、書体対比、色による対比

などといったテクニックが紹介されます。


Step5:文字とレイアウト

プレゼンテーション、ポスター、書籍、

それぞれによって、目的が異なります。

目的にあったレイアウトが必要です。

2011年1月19日水曜日

医療戦略の本質


マイケル・E・ポーター

医療戦略の本質-価値を向上させる競争


『病院ランキングってあるけど、評価基準がよくわからないし、

評判ってそもそもどうなの? ランキングと診療レベルって一致するの?』

『患者さんを紹介しようにも、標榜科以外で判断しようがない。

どこがすぐれた診療をしているかなんてわからない』

『いったい自分の診療レベルはどうなの?』


この疑問はどれも、診療レベルがきちんと評価されていないことが原因です。

どうしたら正常な医療の競争がおこなわれるのでしょうか?

その答えを本著が示してくれるはずです。


著者はマイケル・E・ポーター、ハーバードビジネススクールの教授です。

『競争の戦略』の著者で、これは、ビジネス界ではバイブル的な教科書で、

この功績で30代にしてハーバードの教授となっています。

そんなポーター教授が、ここ5-10年、医療業界ではどうして改革がすすまないかを

研究しています。

他の産業では、イノベーションがおこり、大きなコストダウンが起き、

合わせて質の向上もみられるのに、どうして医療では、コストは膨れ上がる一方で

質の向上はたいして見られないかを解き明かします。


それは、医療でも競争は行われているが、

ずばり『競争の種類』を間違っているからであり、

医療を真に改革する唯一の方法は、競争の本質そのものを改革することであるといいます。


そのように医療を転換するためには、

患者にとっての医療の価値を向上させるような 競争を起こすことが必要であり、

医療における価値とは、

『経費1ドルあたりの健康上のアウトカム』であると説明しています。


そして診療実績による競争を行うために、

第1歩は『診療実績を公表する』としています。


考えてみれば、診療実績を出してもおらず、それを評価もしていないことは、

驚愕の事実であるといえます。

どんな治療法がいいか、病院や、学会で喧々諤々の議論を行いながら、

実は、診療実績を出してさえいないのです。

冒頭の疑問の多くも診療実績を出していないことに尽きます。


ただし、患者さんが、診療実績で医療機関を選択することが、

はたして本当に、患者さんにとって幸せなことかと言われれば、

なんとなくそれは違うと思います。

医療とはそういった質のものではないでしょう。

しかし、医師が、医療実績を把握し、

その改善に努力することは少なくとも必要な気がします。


今回は、とても量が多くて、要約できないです!

『個々の医師の取るべき戦略』から、いくつか紹介します。


・診療は、医師にとっての利便性ではなく、

患者にとっての医療の価値に基づいて行われなくてはならない。

・医師の業務は専門性を披露することではなく、病態に対応することである。

医師は、自分がどのような事業にかかわっているかを理解しなくてはならない。

・患者にとっての価値は、特定の病態に対する専門知識、診療経験、

および患者数によって高められる。医師は、すべての診療分野に広く浅くかかわるのではなく、

じぶんがかかわる病態を絞り込み、真に優れた実績を上げなくてはならない。

・医療の価値を最大化できるのは、フリーエージェントとして行動する個人ではなく、

統合型のチームである。医師は、自分がどのチームに属するか、あるいはかかわるかを理解し、

それがチームとして機能するようにしなくてはならない。

・すべての医師は、診療実績に対する説明責任を持たなければならない。

直感や個人的な経験に頼るだけではもはや不十分である

・良好な診療実績を示せない医師に医療を提供する権利はない。

信頼に足る評価ができるようになった時点ですぐに、

診療実績を患者、他の医療提供者、保険者に公開すべきである。

・患者の紹介は診療実績の優劣に基づくべきである。

また、紹介先の医療機関が、

ケアサイクルにかかわる機関全体と情報交換や統合型の診療が行えるかどうかも重要である

・すぐれた診療には、電子記録および情報交換、情報供給の能力が不可欠である。

真剣にITを導入しない限り、その実現は難しいだろう。

・すべての医師は、診療実績、診療経験、診療方法及び患者属性の評価を基にした体系的な方法で、

自分自身の医療提供プロセスを向上させる責任を持つべきである。

・医師は、知識の習得や診療のよりよい統合のために、

自分の診療分野において優れた医療提供者との提携や協力を模索しなければならない。

2011年1月9日日曜日

人の心を動かす文章術


樋口裕一

人の心を動かす文章術


『ガラガラガラ。。。』

今までの僕の中の常識が音を立てて崩れ去った。

『えっ、こんなはずじゃなかったのに!』

ぼくは今までと正反対の方向に走り出した。


さて、何事かと思われたかもしれませんが、

本著の中の『書き出しで読み手を引き付ける』の中で紹介されている

テクニックを強引に使用してみました。

多少、その続きが気になったのではないでしょうか?


本著では、小論文指導の第1人者である著者が、

読む人の心を動かし、

面白い文章を書くノウハウと

文章を書くことの楽しさを教えてくれます。

文章を書くことはテクニックであり、

基本的なテクニックさえ知れば、

誰でもそれなりに文章が書けるようになるといいます。


科学者(医者)は、その内容が科学的に正しく、

世の中の役に立つ内容であれば、

注目され、読んでもらえると考えがちですが、

そんなことはないですよね。

読んでもらうには、工夫も必要です。


以下、要約です。

面白い文章の条件

⇒『まず心がけることは、読み手を意識して、

興味を持ってもらい、楽しんでもらうように書くこと』



自分らしい文書を書く条件

⇒『あったことをありのまま書く必要はない、

脚色をして、読んでいて楽しいものにする』



【1】文章の型を利用する

起承転結→予告・エピソード・展開・まとめ

予告:きっかけや予告をかく。全体の5分の一以下。
自分の書きたいテーマや与えられたテーマについてイメージした出来事の予告を書く

エピソード:出来事を具体的に書く。全体の三分の一ぐらいで充分。
できるだけ動きのある場面として説明する。いくつものことではなく、一つの出来事を中心に書く。

展開:エピソードで書いた内容から得た印象や考えなどをできるだけ深く鋭く書く。
全体の三分の一が目安。

まとめ:全体のまとめ


【2】書き出しで読み手を引き付ける

(1)動きのある文で読み手の興味を引く

・擬音で始める
・会話で始める
・動きのある行為から始める

(2) 読み手の意表をつく

・ちょっとアブノーマルな状況から始める
・ほのめかす
・逆説で始める

(3) 正攻法で書き始める

・気のきいた格言や人生訓で始める
・もっとも正統的な書き出し(状況をしっかりと説明)


【3】リアリティを作り出す

・具体的に詳しく描写する
・意識して現在形を使う
・他の人が気付かない細部を描写する
・読み手に発見させるように(悟らせるように)書く
・目の前で動いているように書く
・会話体を採り入れる
・ときに自らを省みる
・遊びを加える
・思い切って省略するところは省略する
・意識して誇張する
・「ちょっぴり悪い心」を書き入れる
・口語体を入れる


【4】描写したり、形容したりする楽しさ

(1)修飾語を使うときの注意点・テクニック

・手垢にまみれた修飾語は用いない
・五割増しの大げさを目指す
・重ね言葉を使う
・和語を使う
・接頭語のついた形容詞を使う

(2比喩表現を用いる

・直喩(まるで・・・のような)
・隠喩
・擬人法
・アナロジー(・・・は、・・・のようなものだ)

(3)感情を移入させるテクニック

情景描写することによって、複雑な心情を詠み手が推測して読み取ってくれる


【5】リズムのいい文体、メリハリのある文体

・『です・ます』(敬体)と『だ・である』(常体)を使い分ける
文章をゆっくりと呼んでほしい時は敬体、早めに読んで欲しい時は常体
・一つの分を短くする
・対句を用いる(2拍子にして並べて書く)
・文末を多様にする
・盛り上げる言葉を加える
・倒置を用いる
・遠景と近景を使い分ける
・クローズアップとスローモーションを用いる
・短い文と長い文を使い分ける
・漢字・カタカナなどの使い分けで雰囲気を変える
・会話で気分を変える


【6】ドラマを真似して盛り上げる


【7】 主題に絞り込む

・主題には普遍性を持たせる(個人的ではなく共感を得るように)

(1)主題の効果的な示し方
・最初に主題を言ってしまう
・最後に主題をまとめる
・途中で主題をほのめかす


【8】推敲する

さまざまな人の立場になって読みなおす

数日間おいてから読み直す